おだやかなサディズム-陽光の窓辺

 

冷たい午後の光のなかで彼の欲望は
まるで古い紙片に沁みついたインクの匂いのように
静かに──しかし逃れがたく立ちのぼる。

人が人に触れるというあたりまえすぎる行為を
マルキ・ド・サドは丹念に裏返し
その裏面に沈殿している暗い陶酔を拾い上げては
少しだけ光に翳してみる。

ー鞭は幾度となく撓り嬌声を嬉しがるー

『痛み』は装飾ではなく
『快楽』もまた中心ではない。
ただひとつの身体が
もうひとつの身体に従属するという
その瞬間の配置──それが彼の美学なのだ。

優雅さと残酷さが互いに背を向けたまま
しかし同じ部屋の空気を分け合っている。

ーわたしはその背中の歓びを触れるー

その偏った重力に引かれながら彼はいつも
“人間という装置”の壊れやすさを
確かめているようだった。

おだやかなサディズム

陽光の射す窓辺で
まるで身体という宇宙そのものが、
どこか見えないところで
ひそやかに歪んでいることを
たった一度でも証明したいかのように。


-sayoko-

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