鳴かぬ蛍

 


鳴く蝉よりも鳴かぬ螢が身を焦がし
-浄瑠璃御所桜堀川夜討-



沈黙、あるいは螢の光について..

沈黙というのは、たぶん
支配よりもずっと危ういものだ――と
私は思う。
その光はまるで痛みの記憶のように
柔らかく、しかし決して消えない。

彼女はわずかに呻く。
声を上げた瞬間に
すべてが壊れてしまうと知っているのだ。
私はただ見つめる。
その肩の線、その微かな震え、その呼吸。
その季節が来ても彼女は哭かない。
ただ身を焦がす。
そして私はその光を目で追う。
痛みが快楽に変わる瞬間よりも
その直前の沈黙――
そのわずかな間隙こそが私の欲望の居場所だ。
その光の向こうで私はふと思う。
その沈黙に焦がされるのはわたしなのだ。

-kaori-



The silent firefly burns itself more than
the chirping cicada.

Joruri: Night Attack on the Sakura
Horikawa River at the Imperial Palace

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