セザンヌの夜

 


からすうり静物と霧と深淵

山間の美術館は昼の光を拒むかのように
静まり返っていた。


窓の外は湿った緑をたたえ
霧がそっと樹々の間を漂う。
静寂の中でセザンヌの絵画の前にやってくる。

彼の筆致は昼の明るさに生きるものではない。
夜の帳が世界を包む瞬間に呼吸するかのようである。
山や果物そして家具の輪郭は秩序正しくありながら
微かに揺らぎ夜の深い陰影をまとっている。
絵の色彩は闇の余韻に浸りそこでひそやかに輝く。

リンゴの赤は血のように鮮烈でありながら
夜の静寂に沈む密やかな官能を帯びている。
山の稜線は眠りに沈む森の背骨のように揺らぎ
世界の秩序を解析する理性の背後に
秘められた夢の迷宮を覗かせる。
セザンヌの夜は昼間の現実を解体し
物質そのものの幽かな震えを露わにするのだ。

やがてまだ見ぬ宇宙の時間が流れ込むのを感じる。
森の匂い、湿った空気、そして
ひそやかに振動する夜の残響
それらが混ざり合い私を夜の幻想へと誘う。

コメント

メッセージフォーム

名前

メール *

メッセージ *