秋風のやや肌寒く吹くなへに
荻の上葉の音ぞかなしき
『新古今和歌集』
巻第四 歌上433番
*
バッハはフーガである。
それは技法ではなく
対位法という名の波紋が
音のかたちを借りて
立ち上がつたもの。
幾重にも時を経て主題は主題を追ひ、
重なりすれ違ひ韻を踏むやうに
互ひを忘れてゆく。
御堂に満ちる声明のやうに
音は揺れ揺れながらどこにも帰らぬ。
重ねられた音の衣は
秋の終りに口ずさまれる
せつなき詩歌に似て、
美しさのゆゑに
すでに失はれてゐる。
そこには感情も説明もなく、
ただ秩序が秩序のまま
静かに呼吸してゐる。
*BWV1052 チェンバロ協奏曲編曲譜
*フーガは対位法の一部の様式
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