夢のこと
その小児科医院は
昔から坂下の薄暗い通りにひっそりと佇み、
白っぽい外観は色気もなく
まるで無機質な事務所ビルを思わせた。
わたくしは入り口に近づくと
歪みのある窓の向こうを覗いた。
中はオレンジがかった灯りに満たされ
人の気配が漂う。
思わず一歩後ずさる。
住宅に転用されているのだろうか――
そんな想像が微かな不安と共に胸を掠める。
瞬間、視界の奥に三階あたりの鉄板が現れる。
まるで工事現場の骨組みに似た
粗末な鋼の上に誰かが立っているようにも見えた。
下は透け虚空の底に吸い込まれそうで
恐怖が背筋を走る。
しかし、わたくしは覗き続けることを
やめなかった――
やめなかった――
その禁断の好奇心が
なにものよりも強かったのだ。
なにものよりも強かったのだ。
やがて、すべては終わった。
目覚めた直後、しばらくの間、
確かに存在する建物であったかのように、
現実と夢の境界は曖昧に揺れていた。
坂下の小児科医院は、実在と幻影とが交錯する
ひそやかな幽界の一部であったかのように
わたくしの記憶の奥に淡く蠢いていた。

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