フルーツケーキ



幼き頃、わたくしはフルーツを練り込んだ甘味を
忌み嫌ひてゐた。
クランベリ、レーズン、胡桃、オレンジピール――
酸味、苦味、甘味が複雑に絡み合ひ、
ひと口ごとに小さな混乱を呼び起こすその香味の多層性が
耐へ難く思はれたのである。

しかし、いまやわたくしの舌は
その混沌を歓びとして受け入れる。
添加されたブランデーの芳香か、
あるいは酸いも甘いも呑み込んできた人生の深奥か
理由はもはや分らぬ。
ただ複雑な味の波に身を委ねることこそ
官能的な時間の享楽であると知った。

舌の上で蠢く甘美なカオスは、
幼き日の拒絶を柔らかに溶かし、
記憶と感覚の境界に甘酸っぱい残響を刻む。
一粒のレーズンの酸味もオレンジピールの苦味も、
すべては人生の紡ぎ出す複雑な旋律として、
掌の上で揺れる光のごとく
甘美にそして静かに輝く。

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